John Stevens インタビュー その1

Interview with JOHN STEVENS 第1回

質問:いつ頃、どのようなきっかけでカリグラフィーを始められたのでしょうか?

1979年から1980年頃にカリグラフィーを始めました。私は、常に文字の形に何かしら魅了されてきました。若い頃、私は音楽に興味があり、アートや「かっこいい」文字の形があちらこちらに存在していました。例えば、お気に入りのミュージシャンのアルバム・カバーのアートです。

独学でギターを弾くようになり、幾つかのロック・バンドで働いた後(当時はこういうことが普通でした)、夜遊びやバーに嫌気が差し、別の関心事を追求することを決心しました。それがヴィジュアルアートでした。(私は、15、6歳の年で夜、バーで演奏していたので、翌日起きて学校に行くこともできなくなっていたのです。)

私の計画は、日中は働き、美術学校に通うことでした。しかしながら、父親が看板作りのビジネスを営む「看板制作者」と出遭ったことで、その計画は方向転換しました。私はその方の面接を受け、見習いとして一年ほど働きました。看板作りを非常に早く学び取り(優れた恩師であるAnthony Pernerのおかげです。)、私は看板作りも文字を作るのもデザインするのも概ね好きだったのですが、何かもっと求めているものがあると感じました。当時はまだ何かわからなかったのですが、デザインがしたかったのです。私は「デザイナー・メーカー」*¹になることを好んでいたのです。専門家が分業して物づくりがなされる現代より以前の当時は当たり前のことでした。

振り返ってみると、私が本当に文字の形が好きだと感じ始めたのは、その頃からだといえます。活字、カリグラフィー、文字の形のデザイン、ヴィジュアルデザイン、美術史や美術理論の本を読み漁り、カリグラフィーに惹かれるようになりました。Edward JohnstonやEdward Catich神父(彼は私と同様に筆を使いました)が書いた本など、一冊を読むと次に読むべき本へと繋がっていきました。私は、ヴィジュアルデザインにも非常に興味があり、デザインや視覚リテラシー(判別能力)についての本も多く読みました。様々な側面を学び、それらを生かすことが楽しいと思いました。でも、必ずしもどのように生かせば良いかは確かではありませんでした。音楽理論と似ているところもあり、デザイン理論を理解するには役立ちました。自分の人生の中で、この時期に理想的な環境がありました。フリーランスとなり、数日間は看板制作をしましたが、カリグラフィーを追求する時間は充分あり、仕事に生かすということも可能となりました。

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左から順に
* Una Hoja...P.Neruda 1990 アルシュ・テキストウーヴに水彩と墨。
テキスト: Una hoja del arbol de la vida (意味は「生命の木の一葉」). これは、プエルトリコの友人であり、カリグラファー/芸術のパトロン追悼の展覧会(1990)タイトルでもある。
* Leonardo DaVinci 1983 キャンソン紙に各種ペン/メディアと色鉛筆。当初は印刷会社用ポスターデザインとしてスタートしたが、未完成のままだった作品。数年後に取り出し、1991年、個展のために完成させた。テキストは知識理論対経験に関連するものの抜粋。その文章は、その当時私が教師について抱いていたこと、特にレタリングとデザインについての気持ちを表している。
*Bernhardt ベッドのイラスト: これは、この会社のためにシリーズでやっていたものの1つ。多様なペン(ブロード・エッジ や ルーリングペン)を使い、紙に水彩を使用。

最初は、幾つかのワークショップを受けましたが、私は一人で集中してカリグラフィーをすることを好みました。これは皆様にはお勧めしませんが、私は学校のような環境で学ぶことが出来なかったのです。当時、私の作品に大きな影響を与えたのは、Edward Johnston、アーツ・アンド・クラフツ運動の思想、Eric Gill、Edward、Catich神父、Hermann Zapf、John Howard Benson、Rudolf Koch、Rudolf Von LarischeとFriedrich Neugebauerでした。 自分の思考に影響を与えたのは、文字の形以外ではKlee、PicassoとMatisse、そして思想家や教師ではLászló Moholy-Nagy、György Kepes、Maurice Sansaurezそして批評家ではSusan K Langer、Armin Hoffmanなどです。音楽家たちの思想なども自分の考え方に重要な役割を果たしています。音楽が最初の抽象芸術であると私は思っています。

私は絵画やスケッチにも興味があり、正直、何でも見ました。学ぶことに夢中になり、幸い図書館(ニューヨーク公立図書館やニューヨークのHuntington図書館)や博物館に溢れるほどの情報がありました。レタリングを勉強していたとしても、デザインを勉強していたとしても、常に自分より前に素晴らしく面白いことをした人が多く存在することを知りました。そして、自分の人生の中で、その全てを吸収するには適した時期でした。ニューヨーク公立図書館にある多くの本は絶版になっていたので借りることはできず、図書館の閲覧室でそれらを読み、沢山のノートを取ることは、勉強する素晴らしい機会であると感じました。

私は、かなり早い段階でテクニックより思想や洞察に興味を持っていました。それは単純に、自分が看板作りをしていたことから筆で書く技術は上級者になっていたこと、そして音楽家であったことから、思想の無いテクニックは殆ど無駄であるということに気付いていたからです。ただし、その逆はありません。誤解しないでください。誠に精通するには、テクニックと知識の両方が必要です。

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手書き文字のタイトル

私は指針を求めるようになると、Johnstonの思想が適していました。ブラッシュ・ローマンでは、Catichの思想は極めて重要で、「因果関係」を究明することへと導いてくれました。しかしながら、殆どの人が理解してくれないことですが、私はあらゆることに目を向けていたのです。スケッチや絵画、彫刻、活字デザイナーのEric Gill, Jan Tschichold, Jan Van Krimpen、Morris Benton、William Dwiggens, Frederick Goudyなども、そして勿論、歴史的な写本も注意深く勉強しました。的確な質問をすると多くを学べます。そして、私はどの真実が本当に自分に合っているのかを探していたのです。

最終的に自分が求めていたのは、思いのまま進む方向を選ぶことが可能になるよう、文字の形、構造やデザインの言葉を理解し、その才を持つことだったのだと思います。

思い返せば、私は真実を求め、形の純粋性、様々なデザインへの取り組み方、そして表現の可能性を捜し求めていたのだと言えます。1980年には、私はそういうことでは前途有望だったと思います。自分はHermann Zapf(活字デザインとカリグラフィー)のようなことをする人間になるのだろうと思っていました。しかしながら、世の中は変化していて、そうはならなかったのです。

それでも私は、今も活字に興味があります。でも、当時とは全く違う世の中になってしまい、経済もこの28年で大きく変化しました。殆どがデジタル時代の影響です。 

話をまとめると、練習、読書、実験/勉強により、今の自分があるのです。

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本のタイトル

最後に、委託や課題作品についてです。これはいい機会でもあり、自分で折り合いをつけ、考え抜かなくてはいけない制限があり (「The Power of Limits」(直訳:制限の力))*² 、思想も刺激するので学びを提供してくれます。 委託作品はどれも自分に跡を残し、自分の思想の有効性を試すものです。私に依頼されるものの多くはデザイン性を求められたので、最初の頃そのような作品には、更に質の高い「イラスト的な」文字の形、あるいはイメージとしての文字の形をもたらすべきだと信じていました。デザインには、イラスト、写真、もしくは言葉をイメージとして使います。本のタイトル・デザインは、「言葉のイラスト」の好例です。私の感性は、主にカリグラフィー的な傾向に偏っていたのです。

修了証書や引用句など「普通」のカリグラフィーの作品を依頼されたこともあります。そして、ただ純粋に自分の喜びのために実験的な作品も多く作りました。

私は比較的早い段階で教えていたということも、最後に加えておいて良いかもしれません。教えることは、教師にとっても学びの経験となるのです。

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左から順に
* Winston-Salem Symphonyの名指揮者Peter Perret への表彰状 2004
* 製薬会社社長のための装飾文字作品 2002
* ウズベキスタン大統領のための表彰状 2001

補足:
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我々が生きる現代は、いくらでも情報を入手できます。各地で開催されるワークショップ、本、インターネットのビデオ、DVD、携帯のモバイルバンキングなどです。情報が素早く、簡単に移動するという意味では素晴らしい時代でもあります。

私のように時間をかけて情報を得ると、過程を楽しみ、そして学ぼうとしていることの本来の素晴らしさをもっと吸収できると思うのです。ゆっくり食べることと、ファストフードを一気に平らげることの差と同じように。ゆっくり得ることの利点は、かすかななものから人生を変えるほど素晴らしいものがあります。これだけ情報があると、世の中は良くなっていくと思うでしょう。そして、多くの場合は確かにそうです。

しかしながら、これだけ情報があると、一つ一つの価値をわかっているのだろうか、何かを見落としていないだろうかと、しばしば疑問に思うのです。情報をゆっくり得ると、自分にとっての真実がゆっくり吸収され、それが本来の自分に溶け込んでいくのです。早く得ると、断片化された情報が素早く吐き出され、派生的なものにしかなりません。

Friedrich Neugebauerは、生徒が30の異なるワークショップを受けることに反対し、カリグラファーやブック・アーティストは、一人の有能な先生がいれば良いと言っていたと聞きました。勿論個人によると思いますが、全てのトップカリグラファーは、しっかりと学んだという基礎があり、殆どの場合、多くのワークショップをはしごしたわけではないということも注目に値するでしょう。 
これも、また変わるかもしれません。

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左から順に
* Synergy: ロゴ、ライフ・コーチの機器
* Seventy-Seven: ワインのロゴ。 ボトルデザインはShapiro Walker
* Calligraphy Centreロゴ。一度で書きあげたもの。ウェブサイト、カードやステーショナリーに使用されている。
* ギターメーカーのロゴ
*¹ デザイナー・メーカーとは、誰かに作ってもらうものをデザインするのでは無く、自らデザインしたものを作る人。
*² 本:「The Power of Limits:Proportional Harmonies in Nature, Art, and Architecture」(邦題:「デザインの自然学:自然・芸術・建築におけるプロポーション」 Gyorgy Doczi著

■プロフィール
ジョン・スティーヴンスは、27年を越える経験を持つカリグラファー、ロゴタイプのデザイナー、表現に富むレターフォームのイラストレーターである。本や雑誌出版社、パッケージング、タイプデザイン、グラフィックデザイン、テレビ、映像で、有名な顧客を持つ。 作品展示や本への掲載も広範囲に亘る。2009年11月には東京でワークショップを開催。