WOR(L)DS プロジェクト レポート〈Beach Calligraphy〉

Beach Calligraphy

Andrew van der Merwe

WOR(L)DS概要
ストーン・カーバー(stone-carver) Maud Bekaertが提唱者であるこのカリグラフィープロジェクトは、様々な要素から成り立っていますが、中でも一番重要なのは、南アフリカ人がデザインしてベルギー人が彫った石の数々で、これらの石は、9月28日に開催されたオークションで競売され、その収益は、同国内のAIDS感染で孤児となった子供達への寄付金として、Breadline AfricaとSprinkle,両団体に贈られました。オークションは大成功で、61,250ユーロ(約860万円)の金額となりました。SprinkleはChantal de Maeyerの指揮のもと、渇望されている孤児院施設をDrakensberg地域に建築中で、Breadlineは既にいくつかの孤児院を運営しています。Cape Friends of CalligraphyとBreadlineのメンバーであるBev Gillespieは、このイベントのコーディネートや基金分配に関して中核的存在で活躍してきた人物で、援助の手を差し伸べることになった孤児院の幾つかにMaudを紹介したのも彼女でした。その他に、WOR(L)DSイベントには、MannaとSymposionで開催された、南アフリカ在住カリグラフィーの手による作品展示会と、ビーチ・カリグラフィーのショーが含まれます。ビーチ・カリグラフィーのイベントは、WOR(L)DSへの関心を促すことと、上で述べた基金集めの後押しを目的としたものです。ここに記すのは、ビーチ・カリグラフィー概要とともに、私が実践した初の大きなイベントの結果をお知らせする、私の個人的なレポートです。
ストーンオークションの模様はこちらから(YouTube)
http://www.youtube.com/watch?v=mxr9RkVRJJA
http://www.youtube.com/watch?v=wn5VfmjCYQw

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ビーチ・カリグラフィーの背景

私は南アフリカ・ケープタウンで、15年ほどフリーランスでプロのカリグラファーをしています。(詳細は次をご参照下さい:http://www.writtenword.co.za/home_about.htm )サーフィンもする私にとって、砂浜に文字を書くのは楽しみの一つです。しかし、棒でひっかいて砂に文字を書くと、あとに残るのは文字よりもゴチャゴチャになった砂浜だけで満足がいきません。そこで、過去七年間に渡って、砂を乱さない様々な道具を試行錯誤でトライした結果、石に文字を彫るようにきれいな「V」型の跡を残せるスコップのような道具を考案しました。私のこうした何気ない砂の落書きは、Cape Friends of Calligraphyで私が開いたワークショップを、2004年に地元の大手テレビ局や全国TVネットワークが放映してくれたおかげで名があがり、好奇心と熱意が混ざった反応をもらうことができました。その後、私はビーチ・カリグラフィーに以前より真剣に取り組むようになり、さらに新しい道具を開発し始めたというわけです。
ベルギーのストーン・カーバーMaud Bekaertが2005年、バカンスで南アフリカを訪れていた際、インターネットを通じて私に連絡をしてくれたのが、次のきっかけでした。ケープ半島の界隈に彼女をお連れした際、私達は、ビーチ・カリグラフィーをするために砂浜に足を運びました。それを見てとても感動した彼女は、ベルギーに私を呼んでビーチ・カリグラフィーを披露するアイデアを考え始めました。この時点で私はまだ、自分が砂浜に書いたものを携帯カメラで撮っていたのです!
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ゼーブリュッヘZeebrugge

2006年8月、私は、二日間ブルージュに招待をうけて、ブルージュ市の推進団体Brugge Plusを始め、同市の文化団体にたずさわる諸氏にお目にかかりました。その間にビーチでのご披露を企画した結果、ビーチ・カリグラフィー・イベントの青信号を頂戴することとなりました。明らかに、誰もこのようなカリグラフィーを見たことがなかった様です。
Maudの尽力のおかげで、その後の二年間に様々な出来事があり、2008年の7月、私は再びブルージュに飛び、一ヶ月そこに腰をおろして、ビーチに文字を書くことになりました。WOR(L)DSイベントのビーチ企画は、ビーチに張ったテントにおける小規模な集いの席で、ブルージュ市長Patrick Moenaert氏の発声によってスタートしましたが(写真はこちらをご覧下さいhttp://tinyurl.com/6f9nbm )、市長のスピーチの後50人余りの参加者が、私が砂浜に書いておいた文字を見に歩いて来るまでに、文字は満ち潮で流されていました!そこで、見に来て下さった皆さんやメディアの方々のために、ドロドロのぬかるみと化して貝殻があちこちに散らばるビーチに、文字を書いてご披露せねばならぬこととなりました。ともかくも、驚いたことに、それでも皆さんには喜んでいただけたのです(私が誤って市長の靴に泥を飛ばしてしまったあとも!)が、この困難は、私にとってここでの滞在期間前半の気分を決定づけることとなりました。自分では満足のいく仕事ができないまま、展示用作品の作成に努めたのですが、周囲の皆さんの熱意には、冷めるきざしが見られませんでした。
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このような試みは、世界で初めての企画と言えるのかもしれません。反面、初めてであるからこその様々な深刻な問題にも直面しました。ビーチで書くため、決められた一画(30 m x 300 mの広さ)に来てみたところ、その場所の砂のほとんどは、私が文字を書けるような砂ではありませんでした!乾いて貝殻だらけで、事務所や観客用デッキ建設用の輸送コンテナーを設置した車輌タイヤの跡があちこちに付いており、そればかりか、観客用デッキは大潮高水位標より低い所に設置されていました。文字の書ける砂があるのは、遙か先の水位標より低い所だけで、毎日書いてもすぐに波で流されてしまう上に、天気の悪い日が続いて、休むことなく降る雨に加えて強い風がたびたび吹き、書き終わる前に文字は消えてしまったのです。
一生懸命に書きながら、私の心は沈むばかりで、家族が恋しくなってしまいました!そんなときに私の気持ちを救ってくれたのは、ものの儚い性を説く「vergankelijkeid」というフラマン語表現でした。この言葉は私のモットーになり、私は、砂に描いた小さな花の周りに「vergankelijkeid - onvergetelijkeid」という文字を書きました。(onvergetelijkeid=忘れがたい)
ともかくも、海から吹く風が運んできた細かい砂が、会場入り口あたりに積まれたコンテナーの周りに砂丘を作り、水の補給装置を備え付けたあとは、この砂丘を湿らせることができ、作業がうまくいきました。

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ビーチで過ごした時間の半分は、ベルギーでよく知られた詩人David van Reybrouckが、このイベントのために特別に記して下さった、海をテーマにしたとても素晴らしい詩を彫りました。 この詩は、入り口近くの一番目立つあたりに書いたのですが、ようやく天気が回復した最後の二週間は、三日間ほど消えることなく残っていました。
残りの半分の時間、私は人の名前やイベント企画のスポンサー名を彫り、それから得られた収益は、Sprinkle とBreadline Africaに贈られました。この間に、なんと300人余りの人たちの名前やリクエストを受けた文字を書きました!それを全て高水位標より低い場所でしたのです。そして、ほとんど毎日、夜と早朝の時間は、撮影した写真の作業に費やしました。
ベルギーの人たちはユーモアたっぷりで面白く、私が砂に文字を書くのを見に来たり、書いてもらった自分達の名前と一緒に写真撮影をしたりする人たちと、とても楽しい時間を過ごしました。満足のいく写真も何枚か撮れました。このことと、とても美味しいベルギー産のビールを賞味できたことが、ブルージュ滞在中の最も楽しい経験でした。

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ここからは何処へ?

このイベントは私にとって命綱となりました。南アフリカでプロのカリグラファーとして生活していくのは並大抵のことではありません。あきらめようと思ったことも何度かあります。そんな中、このイベントは私の励みになりました。Brugger Plusの後援で充分な資金調達をいただいたおかげで、家族の生計をたてる本業のカリグラフィー事業をしばらく休んで、ベルギーに行って、時間をかけてビーチ・カリグラフィー技能を次のレベルに進めることができ、また、必要な写真撮影機材を入手することも可能となりました。
私のビーチ・カリグラフィーにおける将来の短期目標は、グリーティングカードのプリントと販売開始、ウェブサイト(www.beachcalligraphy.com )の構築、そして私の見いだしたものがシェアできるように、世界中の興味を持ってくれるカリグラフィー団体にワークショップをオファーすることです。私が考案した道具類の大量生産の手段も探している最中です。また、WOR(L)DSプロジェクトを通じて、興味を持った南アフリカ難民数名に、ビーチ・カリグラフィーを教え始めています。

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世界各地でのWOR(L)DSのインパクト

ここでは主にビーチ・カリグラフィーについて述べました。このトピックは、カリグラファーの方々にとっては、興味の持てるものかもしれませんが、AIDSのせいで孤児となった、数多くの南アフリカの子供たちの生死を争う人生物語には比べものになりません。この子たちのために、こうしたイベントは、機会があれば是非また催したいと思いますが、WOR(L)DSに関して、もう一つ言いたい大切なことがあります。このプロジェクトは、南アフリカのカリグラフィー界が必要とする独自の声、つまり南アフリカ独自のスタイルを探し始める媒介となり、また、私たちの社会的な幅を広げてくれました。このことは、アパルトヘイトのせいで戦争間際まで緊張が増していた様々な人種間のハーモニーを見つけ出すことが、国家としての運命を左右するこの国の、無くてはならない課題でもあります。これまで、この国でのカリグラフィー界は、少数の比較的特権のある白人に占められていましたが、WOR(L)DSを通じて全く違った「世界」の人達(ジンバブエやコンゴの避難民を含めた)を引き寄せており、南アフリカのカリグラフィー界では、エキサイティングな新時代が始まっています。こういった相互作用は、新しくカリグラフィーを始める人達の励みになるとともに、我々カリグラファーの作品に、より深い意味と生命力を与えてくれます。
南アフリカのカリグラフィーはまだささやかなものですから、これは、ベルギーカリグラファーの皆さん(特にMaud Bekaert)、そしてWOR(L)DSを全力で後押しして下さったブルージェ市の方々の素晴らしく寛大で心温まる、一生懸命かつフレンドリーで賢明な協力なしには何一つとして実現し得なかったことです。皆さんに心から御礼申し上げるとともに、皆さんとの友情を大切にしたいと思います。

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リンク

ビーチ・カリグラフィーは、あくまでもWOR(L)DSプロジェクトの単なる一部に他なりません。ベルギーで有名な砂彫刻作品の豪華さとは比べられるものではありませんが、ビーチ・カリグラフィーがメディアから受けた反響は驚くばかりのもので、地元のTV局や、地元誌及び全国誌にも取り上げられました。そうしたメディア反応のリンク一例を紹介いたします。中に一つ動画もあります。

http://www.standaard.be/Artikel/Detail.aspx?artikelId=4P1TSDDJ

http://www.knack.be/weekend/nl/news/articles/a8740-article.jsp

http://www.focustv.be/articles/index.jsp?articleID=35219§ionID=188&siteID=33

http://picasaweb.google.com/Scriptores.Redactie/ZandkalligrafieEls?authkey=P3CHFSYkIXA

最後に一つ

WOR(L)DS作品カタログは、Maud Bekaertの尽力で集まった広範囲にわたる後援者の方々の援助の賜物です。同カタログは、主要後援者の一人である(また、私のベルギー滞在中お宿を提供して下さった)
OuVert社のHilde Winsteinのデザインであり、その販売から得られた収益は、全てSprinkleとBreadlineに贈られています。カタログ入手をご希望の方は、Chantal(Chantal@sprinkle.be )までご連絡ください。
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