ゴードン恵美「レターカッティングWS 2010」レポート

2010年4月に、ゴードン恵美の「レターカッティング入門」ワークショップ第2回目を大阪と東京で開催しました。参加された方のレポートを掲載いたします。

■ 東京会場レポート

東京会場:世田谷ものづくり学校  2010 年4月23日(金)~ 4月25日(日)

前回の大阪でのワークショップの受講からはや半年。参加者に好評だったゴードン恵美さんのレターカッティングワークショップが帰ってきました。
前回参加した11名は、今回は大阪と東京に分かれはしたものの、全員再参加するというほどの待ちに待たれたワークショップです。

初日は4月も中旬だというのに冷たい雨。会場は元小学校であった施設にデザイン事務所やカフェなどが入る世田谷デザインインスチチュートです。午前10時から参加者の自己紹介で三日間のワークショップは始まりました。東京会場は、初心者6名と昨年大阪でのワークショップの経験者が私を含め4名の合わせて10名。カリグラファーの方を中心にデザイナーも3名参加していました。男性は私だけ、女性陣に気後れしないように頑張ろうと気を張りました。

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自己紹介のあと、講師である恵美さんから簡単な概要説明があり、「自分のペースを大切に。決して急がなくてもいい。」と話していただきリラックスできました。前回ワークショップでもこの言葉を頂いたおかげで、慌てず急がずじっくりと取り組むことができました。完成しなくてもいい、一文字に一週間かけてもいい、と教えていただき、時間をかけて一つ一つ丁寧に理解しながら進めることができました。

初心者と経験者に分かれ、作業が始まりました。経験者は早速イーゼルを用意し前回の続きを彫りはじめます。前回大阪のワークショップから今日までの間に東京からの参加者が集まって勉強会をしたり、自分でも彫っていましたが、またしばらく経っていたせいか感覚を忘れてしまっていたので、まずは石の裏面に練習彫りをして感覚を取り戻します。セリフの作り方、ステム、カーブの彫り方を何度か繰り返し、恵美さんに見ていただきながらじっくりと学んで行きました。恵美さんの指導はわかりやすく、言葉で説明するだけでなくデモンストレーションをしっかりと見せていただけました。チズルの角度や彫る強さなどは言葉だけでは理解しにくいですが、デモンストレーションを見せていただくことで感覚的に理解できました。

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一方今回初めての参加者は、3つのグループに分かれ、それぞれ石磨き、デザインドローイング、道具の準備を進めて行きます。デザインドローイングについては宿題となっていて経験者も持ち寄りました。休憩前後に何度か合評会が設定され、進捗をお互い報告しながら、全員で意見を出し合います。私はフリーランスのデザイナーで、普段一人で作業することが多く、迷ったときは誰かに相談してみたいという思いにかられても、なかなかそうも行きません。しかしワークショップでは参加者がそれぞれの視点から意見を出し合い、自分では気がつかなかった点に気づかされました。参加者の方々は全員感覚が鋭く、さらに面白いアイデアやスペーシングの問題点を本当に微細な単位でどんどん指摘し合います。意見を交わすことで気がつかない点を知り、修正、調整を加えることでさらに完成度を高めていく作業が印象的でした。石に彫るということは、失敗は許されません。線の少しの歪みも下書きで放っておくとそれが全て石に写されてしまうわけです。そして彫られたものは半永久的に残ってしまう...。皆さんに厳しい目で指摘していただいて日頃の自分のいい加減さ、甘さを見つめ直すことができたように思います。

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石に文字を直接彫るという作業を通して普段は味わえない多くの発見をすることができました。デザインワークはコンピュータですることが多く、デザインスケッチや下書きは手で描くとはいえ、フィニッシュワークはコンピュータで何度でもやり直すことができます。しかし、自分で綺麗に磨いた石を対峙すると、失敗をおそれるあまり、なかなか彫り出すことができません。そういう緊張感は普段はあまり感じていなかったと、彫る作業に触れて初めて気づかされました。そしてもうひとつ新鮮だったのは、五感を使って制作ができるということ。コンピュータのデータは有形のようでいて無形。使っている最中に電源を落とすと吹っ飛んでしまうような、影もカタチも無いし、直接触ることもできないものです。ところが石には絶対的な物質感があって、触ればひんやりとしていますし、光の角度で表情は変わり、チズルで削るとほのかに石の匂いと味がし、彫る強さや角度によって音も変わります。まさに五感を使って石と対話しながら制作する感覚がとても新鮮でした。その他、文字の成り立ちについても勉強できたのが大きな収穫でした。ローマン体のセリフのでき方は筆の動きも大きく関わっていますが、ノミの入れ方や彫る角度も大きくフォルムに連動しているように思え、どう彫ればセリフを綺麗に掘り出すことができるかというのが、少しづつイメージできるようになった気がします。

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制作以外にも参加者の方々とランチをご一緒したり、親睦会などでいろいろと楽しいお話をすることができ、横のつながりが広がって行くのもワークショップに参加する魅力だと思います。また今回は合評会に飛び入りしていただいたゲストや見学者も多くあり、いつも新鮮な空気が会場に流れていたように思います。
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リポート/岡野邦彦(Shotype Design)

■ 大阪会場レポート

大阪会場:弁天町市民学習センター 2010 年4月17日(土)~ 4月19日(月)

このワークショップへの参加は2回目ですが、自分の中では1回目から繋がっています。文字初心者ではありますが、自分なりに描いたオリジナルの書体を持っていて、それが2回のワークショップを繋ぐ軸となっています。1回目のワークショップを受けた後、そこ得た知識をオリジナルの書体に反映させてブラッシュアップしました。それを踏まえた2回目は、まだ曖昧になっていた「セリフの理解」をテーマに臨みました。全2回計6日間で得た文字の命となる部分を学べたことは一生の財産です。

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参加1回目となる前回は、彫る技術より、彫るために必要なことから多くを学ぶことになりました。これは予想もしてなかったことで、かなりの衝撃でした。下書きとして事前にローマンキャピタルを描いて来るのが宿題だったので、それからいきなりなり彫るのかと思いきや、まったく違ったわけです。下書きの段階で何度も吟味して、何度も描き直すことに時間をたくさん使いました。いざ彫ろうとしたとき、頭の中に文字の線が奇麗に描けないと、小さな迷いを何回も繰り返してしまって「彫れない」ことに気付きました。なぜなら、神経を使って細ーい線で下書きを描いたにも関わらず、石に写し描いた線はどうしても太くなってしまい、それに沿って繊細な線を彫っていくというのは出来ないからです。「このために十分な準備が必要だったんだなー。」と頭では理解できた瞬間でした。1回目のワークショップを終わってみて、参加前に描いたオリジナルの書体を眺めてみると、問題点がたくさん見えて、人前に出せないくらい恥ずかしい書体であることに気付きました。でも言い換えれば、ワークショップの経験によって何かが見えるようになったわけです。そのオリジナル書体をブラッシュアップして、2回目の参加を申し込みました。

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今回が2回目となるわけですが、いつしか自分の中で、このワークショップ参加することは、曖昧になっている部分を解決すること、という位置づけになっていました。今回の自分なりのテーマは「セリフの理解」。セリフを描くときの迷いをなくしたいという想いで臨みました。厳しい目にさらされるのもワークショップのいいところです。参加者の方はみんな目が良いので、良質な客観的意見をたくさんくれます。こんなことは、自分の日常にはないので、この数日間で修正するのは大事なことだと感じていました。初日の終わりに、参加された方のご好意で平筆を借りて描いてみるチャンスにも恵まれました(ありがとうございます!清水さん!)。筆でいくらか描いてみた後に下書きを見ると、セリフの部分に問題点をいくつも見つけました。「筆の動きを考えると、こうはならないはずだよなぁ。」というところがわかったわけです。結局、下書きの修正で2日目も終わってしまいました。でも、またちょっとセリフの理解が進んだので自分なりには満足してました。

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参加2回目の最終日にして、やっと頭の中にスーッと線を描く映像が出てくるという感動を経験することになります。前回と同様に、また準備に2日間も使ってしまい、最終日に彫り始めるということになりました。しかし、この充実した準備は、彫り終わることより重要であることは学んでいたので、焦りもないどころか、むしろ楽しみでした。そしていよいよ石を彫り始めました。すると、前回とまったく違い、頭の中にはっきりと文字の輪郭が現れている状態になっていることに気付いて地味に感動しました。まずは彫る練習ということで、石の裏側のデコボコした部分に白い鉛筆で軽く線を描いただけだったので、目に見えてるものと、頭の中に見えているものは全然違うものでした。この状態で、目に見えている線に沿うのではなく、頭の中の線に沿って彫っていくというのが、なんとも気持ちよく、いい時間でした。なぜ講師の恵美さんが彫る前の準備が重要だと言っているのか、理屈でわかった前回に対して、実感として理解できたのが今回だと言えます。

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ワークショップを終えてみて、自分が描いた下書きと彫った石を眺めていると、頭の中の線はもっと奇麗なのに、実際に描かれた線、彫った線とは少しギャップがあるのがわかります。線にピンとした繊細な張りがないというか、なんとか形を整えようとしてる状態というか、そんな感じに見えます。しかし、思えば、参加2回の合計はたったの6日間なのに、ここまで進歩できたことに驚きです。文字初心者の自分にとって一生の財産だよなぁと思える価値ある時間でした。

木下 博之

■ 第3回目は2012年7月に予定しています。

大阪 2012年7月14日(土)~ 7月16日(月祝)
東京 2012年7月20日(金)~ 7月22日(日)