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ワークショップレポート
「リーズベット・ボーデンズ ワークショップ」レポート掲載にあたって
雨も多く暑かった今年の夏の盛りに、リーズベット・ボーデンズさんに来日いただき、東京・大阪の2会場で、2つの同じ内容の講座を開催いたしました。リーズベットの人間味あふれる優しい人柄と、深く多岐に渡った芸術とレターアートにかかる経験と知識に裏打ちされたレッスンで、全てのレッスンが素晴らしい学びの場となりました。
講師のリーズベットに深く感謝するともに、参加者の皆さんが講師と共に学ぶだけでなく、その場を笑顔に満ちた時間にしてくださったことに、とても感謝しています。
皆さん、どうもありがとうございました。
参加者の中から、水野雅斗さん(東京会場参加)にExtraordinary Lettersについて、木作輝代さん(大阪会場参加)にMonogramについて、体験レポートを書いていただきました。ご協力ありがとうございました。
リーズベットと学んだことが、皆さんの創作活動にひらめきや彩りを添え、より充実したものとなっていきますよう願っています。
ワークショップ担当: 久賀真弓
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●「Designing and Interpreting for Extraordinary Letters」
ワークショップレポート 水野雅斗
「このオリジナリティ、自分の中から生みだせるようになれるものかな?」
初めてリーズベット作品を見た時の、自分の感想です。
今回参加するWSのテーマは『斬新な文字のデザインと表現』。
まさしく、それらがどういった道筋で生み出されるかを知ることができる貴重な機会となりました。
" BETTER LATE THAN NEVER "
3日間のWSということで、1日目はデザイン・コンセプト固めに費やすことになってもいいか、という覚悟で、上記の文章だけを用意し、あえて空っぽの頭で初日に臨みました。
リーズベットさんの人柄もあり、リラックスした雰囲気で始まったWSの最初に、来日時に持ってきていただいた作品群を拝見。机いっぱいに埋めつくされた作品たちは、それぞれに個性を持ち、心を持っていかれます。
さらに、それらが生み出される過程も、資料として惜しげもなく見せていただけ、その "Step by Step" が新鮮でした。カリグラフィー作品を手がける際、おおよそのサイズを頭に入れて、ペンサイズを決めてレイアウト作業を開始することが多いかと思いますが、資料の最初のページには、数cmに収まるサイズでの、鉛筆で描かれたモノラインに近い形のアイデアがビッシリ。
少しだけアレンジされているもの、大きく変化したもの、それぞれに細かな時刻までかかれていて、刻々とアイデアが生み出されていくのが手にとるようにわかります。
通常、完成作品だけを見ることがほとんどで、それが生まれる過程が聞きたいと思うことは多いですが、数々の作品で、それを実際に確認させてもらうことができました。
しばらくそれらに見とれた後、鉛筆を持って各々でのアイデア出しの時間です。
心惹かれた作品の、どこか一部でも取り入れられないかと考え、とにかく書きだしてみます。
1つのアルファベットの中にも、ストロークごとに様々な動きがあるのが印象的で、複数の個性すら持っているかのように感じたところから、「アルファベットの上下左右、どこかに分割・異なった要素を盛り込んでみよう」、自分の中のコンセプトが決まりました。
5cmほどの空間に何パターンかレイアウトしてみて、相談。ストレート組みで作品づくりが動き出します。
『130%に拡大して、続けて頑張って』
目の前に実際にあるものとは別のヴィジョンが見えているとしか思えない、細かな精度で道を示してもらえます。スケルトンな状態から、少しずつ肉付けしていきます。その中に、思い浮かんだアイデアも取り入れて、逆に削ぎ落しもします。自由な中にも自然と法則が生まれ、ワードとしてのまとまり感が出てきます。
『私が必要な人は、手をあげて』
デザインを仕上げていく時間を多く取っていただけ、足を踏み外しそうになると、的確なアドバイスでバランスを保ってもらえます。
(シンプルさが不安になって、やりすぎてしまうと優しく指摘いただけました。アルファベットとして認識しにくくなってしまう点は重視され、解決策を一緒に考えていただいた時間は、非常に貴重な経験となりました)
段階を踏んでのスケールアップは続きます。
拡大していくにしたがって、自身のコンセプトもハッキリしていくと共に、スペーシングやディテールの粗も明白に。それでもどうにか、2日目最後にはリアルスケールでの姿が見えてきました。ステップ数は5を超え、その大きさはA3では収まらないサイズにまで成長しました。
仕上がったデザインをトレースする作品用の紙は、少し荒目の水彩紙。塗りには、なんと、スピードボールのブロードペンを使用します。筆よりも思い切りよく広範囲が塗れ、何気にエッジもキレイに出せて、その意外な用途に新たな発見でした。
透明水彩という選択肢もありましたが、ガッシュをベースに塗り、色鉛筆を乗せて仕上げることにしました。
「紙の凹凸」と「ブロードペンによるガッシュの流れ」が色鉛筆により浮き出て、自然なテクスチャーを演出してくれます。最終的に仕上がった作品を、最初のアイデア段階のものと一緒に写真に収めてみました。
『すぐには満足するものはできあがらない。植物が少しずつ成長するのと同じように、細かな部分を丁寧に仕上げていきましょう』
その言葉の通り、WSのラストに見せていただいたクラスの皆さんの作品たちは、本当に生命力を持っていて、表現する楽しさが伝わってきました。
まだまだ私自身のオリジナリティを発揮できるところまでいっていませんが、アプローチの仕方と、リーズベットの素晴らしい人間性という栄養は、今回ちゃんと吸収できたつもりですので、今後しっかり根を張って、新しい枝葉をつけていきたいと思います。
最後に、J-LAFスタッフの皆さま、素晴らしい通訳で橋渡しをしていただいた朝倉紀子さんに感謝いたします。
●「Designing Personal Monograms」
ワークショップレポート 木作輝代
リーズベット・ボーデンス氏ワークショップ「モノグラム」を受けました。
無理です、お手上げ。うまく説明できません。
私の語彙力と表現力では、この方の文字がどうしてこんなにチャーミングなのか、理由を言えません。頭の中をこしょこしょ刺激されるような、といいますか……。確かな技術に裏打ちされているのに、ユニークさ、愉快さに満ちた文字ですよねえ。いや、裏打ちされているからか。とにかく、遊び心が半端ない。
このワークショップの案内を目にしたとき、「これは絶対受けなアカンやつ」と思いました。幸せな顔で話を聞く自分を受講前に想像しましたが、実際そのとおりになりました。とてもおもしろかったんです。
「モノグラム」は、イニシャル2文字から数文字で構成するもの。自分自身や誰かのイニシャルをはじめ、パートナーと自分のイニシャルを組んだもの、または商業的なロゴ仕様のものetc.と、作る内容は自由。いずれにしても「あなたらしいモノグラムを作りましょう」という言葉でワークショップがスタートしました。
まずは組み合わせの主なパターンを学びます。
同じスタイルにするか(書体など)、違うものにするか。文字をつなぐか、離すか。また、「明るい・暗い」、「太い・細い」、「文字幅が広い・狭い」、「静的・動的」、「鏡像・普通の像」などコントラストをつけるか、様々な組み合わせ方のサンプルをボードに書き示してくださいました。
イニシャルを&マークでつないでもよいし、数字、模様、枠など、文字以外の要素を足してもよいとのこと。その後、用意してくださった多くの作品を見せていただき、解説を聞いてから、いよいよ制作開始です。
このときクラスを見渡してみると……。
うれしい悲鳴と言えます。組み合わせパターンの選択肢が多いので、用紙に向かったまま、しばらく茫然とする受講生たち(私を含む)の姿がありました。(笑)
いただいた&マークもこんなにたくさん。
制作手順はいつもたいていこんな感じだそうです。
縦横数センチほどの小さなサイズのラフスケッチを、細いシャープペンシル(0.3ミリがベスト)で描いていきます。ポイントとしては、遠くから見ても構成がわかりやすいように黒く塗りつぶすこと。うまくいかないときは固執せず、別のものをどんどん試してみること。どちらにするか悩んだら、読み間違えない方を選ぶこと。
そして、ラフ案の中から1つを選び、的確なアドバイスを受け、時間をかけて修正を加えていきます。やっとOKが出たら、200%に拡大コピー。さらに、直接手直しなどしてもらいつつ、修正と拡大コピーを繰り返します。(だんだん変化しながら大きいサイズになるため、「育てていく」と表現されていました)
形がほぼ決まったあたりで1日目は終了。
2日目も引き続き改良を進めます。
形の細部まで修正、改良し、デザインが決定したら、本番用のやわらかい紙にデザインを写し取ります。直線のラインを写すのに定規は使いません。これまでラフに描いていたモノグラムのラインを美しく整え、最終段階の彩色へ。
デモンストレーションで見たやり方をまねして、文字の輪郭はスピードボールのペン先やポインテッドペンを使い、中は筆で絵の具を塗るのですが、意外と手ごわく、ついはみ出てしまう人が続出です。が、ショックを受ける面々に救いの手が差し伸べられます。薄いカミソリで絵の具のシミを見事に消すという、リーズベットの「魔法」の1つを目撃できて、幸運でした。
全ての過程を発表。
さて、2日目の開始直後には全員がデザインの発表をしています。(クリティークというより「発表」だったので、少し気が楽)これが私には大変貴重な経験となりました。
ラフスケッチの段階からほぼ完成しているデザインまで、全ての過程を見せてもらって説明を聞くと、最初のデザインがどう進化していったかがよくわかります。全体のバランス、スペースの取り方、ラインの形・長さ・質……挙げ切れない数々のアドバイスや発想のヒントを受けて、「いつもの自分」、「普通」を脱し、思いがけない形に変わっていく様子が見て取れました。
そんな、モノグラムが成長していく楽しさ、うれしさのせいでしょうか、この2日間、あちこちの席から明るい声が終始聞こえていたように思います。講師のお人柄のせいでもありますね。オープンで気持ちのいいワークショップでした。
ずっと励まし、根気強く指導してくださり、書く楽しさをシェアしてくださったことに感謝します。まさに文字どおり、チャーミングなリーズベット。ほんと、おおきに!
赤いワンピース、赤い眼鏡がよく似合ってらっしゃった。
ペンケースも赤だ。可愛い。
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申込み要項 開催日程・会場 2018.3.5
『リーズベット・ボーデンズ「カリグラフィーWS」2018 詳細・申込み要項のご案内』をNewsのページにアップしました。
開催のご案内 2018.02.04
2018年7月にベルギーよりリーズベット・ボーデンスを迎え、ワークショップを開催いたします。
今回は、東京と大阪にて「Designing and Interpreting for Extraordinary Letters」(3日コース)と「Designing Personal Monograms」(2日コース)の2講座及びスライドレクチャー「BOUDENS TIME SIX」を開催いたします。
◆「Designing and Interpreting for Extraordinary Letters」
個性と才能にあふれたカリグラファーの家族として知られるボーデンス・ファミリーのひとりで、ベルギーでは中等教育課程の美術教師でもあります。モダンで大胆な構図、個性的で自由な動きのラインの作品が印象的で、国内外のワークショップ、シンポジウムの講師としても活躍されています。来日は初めてですが、2009年に開催されたJ-LAF主催「日本・ベルギー レターアーツ展」に出展されていましたので、作品を実際に目にされた方もいらっしゃると思います。
カリグラフィー、美術的表現に関する深い造詣と経験に裏打ちされた、リーズベットの表現技術を学ぶ素晴らしい機会となるでしょう。
講座内容及び募集の詳細等については、3月初旬にウェブサイトでお知らせする予定です。
<講師プロフィール>
Liesbet Boudens リーズベット・ボーデンス
1957年ベルギー・ブリュージュ(Brugge)生まれ。
ベルギー・ゲント(Gent)にて美術を学び、ブリュージュで中等教育課程の美術教師を務める傍ら、フリーランスのレターアーティストとしても積極的に活動しており、ベルギー国外のワークショップで多く講師を務めている。これまで講師を務めたWSの主な開催地は、フランス3都市、ドイツ4都市、アメリカではカンファレンスの講師を含め6都市。
カリグラファーである父とかつて美術教師であった母のもとに生まれ、芸術に囲まれて育つ。幼い頃から、絵を描くこと、文字を書くことに親しみ、30代で本格的にレタリングに関わるようになるずっと以前の10代の頃から専門的なペンで文字を書くこと、美しいアラベスク模様を描くことを好んだ。
レタリングの分野で最初に影響を受けた芸術家は、言うまでもなく、カリグラファーであった父親である。父の友人であったジョン・スケルトン(John Skelton:Eric Gillの甥であるイギリスのレターカーバー)からレタリングにおける「遊び心」の可能性を学び、ウェールズのデービッド・ジョーンズ(David Jones)やドイツのハンス・シュミット(Hans Schmidt)の作品に強い親近感を感じ、影響を受ける。
絵画の分野では、ベルギーで有名な戦後のアーティストのひとりであるダン・ヴァン・セバレン(Dan Van Severen)が師であり、絵を描くことにおける完全性への洞察感覚を彼から学ぶ。「絵画は、1つの作品の中で、どんなに小さな要素であっても、全体の中でそのあるべき関係性の中に配されている、よく考えて作られた飛行機のような構成であるべきだ」という単純だが大切なことを学んだ。ジャン・ミロ(Juan Miro)、レオン・スピリアールト(Leon Spilliaert)、エドワード・ホッパー(Edward Hopper)、アメデオ・モディリアーニ(Amedeo Modigliani)などの画家に影響を受けている。
フォーマルな平ペンを使ったカリグラフィーにしばらく取組んだ後、ビルトアップレターを紙に描くようになる。なんとなく、カウンターの美しい形を意識する以上のことに意欲を持っており、文字とその背景の関係性をうまく生かした表現の追求を始める。紙に色を付けたり色付きの紙を使ったりしたが、どちらも真の満足は得られなかった。伝統的なローマンキャピタル体やカリグラフィーの書き方に固執しない表現に至ったのはその時である。また、一般的な紙のサイズに閉塞感を感じていたので、ダイナミックな動きを生かして描けるキャンバス、パネル、壁が紙に替わる表現の場となっていった。
Liesbet Boudens Website: http://liesbetboudensletters.eu/index.php?actie=english