The Neri Collaboration
2004年のこと、マニュエル・ネリ*1財団の代理人から、ネリのドローイング原画とパブロ・ネルーダ*2の詩を組み合わせた、オリジナル本制作プロジェクトへの参加の意向を問い合わせる連絡が入った。1冊の予定で始めたそのプロジェクトは5年続き、結果ネルーダの詩で7冊、フェデリコ・ガルシア・ロルカ*3の詩で9冊、合わせて16冊の本が出来上がった。そのうちの7冊と制作過程のラフ・スケッチや道具類を公開するエキシビションが2012年の春スタンフォード大学で行われた。
*右:展示のインスタレーション
本に取り入れる(ネリの)ドローイングと詩の選択は別として、その他の本作りに関わる編成やデザインの決断は私に委ねられた。まず最初の作業として課されたことは紙の選択、本のサイズやフォーマット、ページ・レイアウトなどである。初期の段階では製本家と討議を重ね、装丁の構造を理解し、セクションにおける紙の枚数などを打ち合わせた。
やりがいと創造性を感じたのは、見開きでマニュエル(ネリ)の原画に並ぶページにくる詩をカリグラフィーで書く部分である。その見開きページでは、彼のドローイングが最も重要な視覚的要素であることは明白であり、カリグラフィーは補助的な役割を持たせることが必要とされた。同時に、テキストは詩の一部分のほんの短い行なのだが、原画イメージと詩は視覚的にも、あるいはその内容も関連性が不可欠だった。
マニュエルのドローイングに含まれる色や線を、口語での表現に解釈して読もうとした。そしてそれらが詩の雰囲気や感覚と調和するかを試してみる。場合によっては繋がりが感じられて調和がとれていることもあったが、ほとんどの場合、特にロルカの詩は、全てが謎に包まれている感覚が残った。始めはそのことに苦心したけれど、だんだんとその有利な側面が見えてきた。ドローイングから色や線、描かれている人物の容姿が占めている特定の形やスペース、色や線から手がかりを得て、かえって自由な発想での作業に集中できたこと。その後やっとカリグラフィーの果たせる役目が見えてきた。ドローイングの重要性を高めたり、あるいは、言葉(詩)とイメージ(ドローイング)を並べて一緒に見た時、必ずやそれらを連想できる訳ではないので、カリグラフィーが奇異な役割でそのふたつをつなぎ合わせる要素になり得たように感じる。
詩とイメージの関連性や、意味を見つけ出せるか否かは、作品を見た個人の感性次第である。ある人にとっては未知で関連性が見つけられなくても、別の人には一目瞭然だったりするのだから。目指していたのは、言葉とイメージの結びつきやつながりであり、詩と(描かれた)肖像が、ひとつの声となって語りかけてくること。
このネリ・プロジェクトによりオリジナル本を作ることへの関心を取り戻した気がする。
*1 Manuel Neri (1930 - ) カリフォルニア在住アメリカ人 造形作家
*2 Pablo Neruda (1904 – 1973) チリの詩人
*3 Federico García Lorca (1898 – 1936) スペインの詩人
過去に作った本
詩人と共に
現在取り組んでいるプロジェクトでは11名の詩人が関わっている。ディビッド(Special記事前半参照)が事の進展において重要な役割を果たしている。2011年、サンダーランド大学でディビッドと共にクラスで教え、音楽からの感応を取り入れた内容にしてみた。ディビッドは詩を書き、自分はその詩を表現するような線から、さらに書体へと発展させた。これはとても刺激的な経験で、その後の新しいコラボレーションに発展する機会となった。ディビッドとのやりとりの数ヶ月後、他の詩人たちにも参加してもらうことができれば、良い意味で前進させられるのではという結論に達した。そこで、ディビッドがイギリスから6名、フィリピンとシンガポールからそれぞれ1名の詩人を紹介してくれた。私はアメリカから3名を選んだ。
まずは抽象的なカリグラフィーのラインを書いた紙を何枚も作ってみた。音楽を聞きながらの反応で書いたので仮に"音楽シート"と呼ぶことにする。多種多様なイメージの表現を目的に、色々な書き道具を使い、分野の異なる音楽を聞きながら、聞いている音楽と連鎖した線や点などを表現させたつもりだ。
それらの音楽シートと自分の作品サンプル、プロジェクトの為に詩を提供してもらえるかどうかを尋ねる旨の手紙などをまとめて詩人たちに送ってみた。彼らに頼んだことは、同封した音楽シートとイメージが調和する詩があればその詩を使わせてくれるか、もしくは音楽シートのイメージに合う新しい詩を書いてくれるかどうか、である。
5名の詩人が新しく詩を書き、他の詩人は既存の詩を送ってくれて、なんと全員からの良い反応を受け取ることができた。それらの詩と音楽シートのイメージの組み合わせを素に、デザインや新しい書体などを作るのに利用した。この経過に誘導されるように、それぞれの詩につき一冊の本を作ることにした。そして出来上がった本とスケッチは、現在、全ての詩に対する私の解釈を表現豊かにまとめる、最終的な本の製作の土台となっている。
数年に渡り、詩を視覚的に解釈することに取り組んで来て、今こうして詩人本人たちと直に関わることにより、今までに経験したことのない別の次元と熱意が加わったように思う。
★photo★
35年以上カリグラフィーを教えてきた今では、可能な限り教える時間を減らしている。その替わりにサンフランシスコのスタジオで、平和に楽しく世界各地にいる詩人たちとのコラボレーションの本作りを楽しんでいる。
カリグラファーたちとのプライベート写真など
*2 Donald Jacksonとウエールズ(英)にて
*3 カーディフ(英)のミレニアム・センターにて
*4 Katharina Pieper, Jean Larcherと共にカッセル(独)のDocumentaで
*5 Giovannni De Faccio, Luca Barcellonaとアバノ(伊)にて
*6 Brody Neuenschwanderとヴェニス(伊)にて
*7 Carl Rohrsとベルリン(独)のAkademie Der Künsteにて
*8 Akademie Der Künsteでのグループセッション
*9 京都の三千院で写経をするトーマス
*10 ニュージーランドでスケッチするトーマス
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