Interview with JOHN STEVENS 第3回
質問:現在進行中のタイプフェイスのお仕事はありますか?ありましたら、可能な範囲でお話していただけますか?
はい、2006年にノースキャロライナ州のSalem College〈訳注:アメリカの女子大学〉にあるSingle Sisters House〈訳注:校内で最も古い建物。1785年にモラビア人により独身女性の住居、礼拝、そして教育の場として設立された。〉のために、大学に帰属するタイプフェイスを完成させました。http://www.singlesistersfont.com/
ノースキャロライナ州Bethaniaに1785年頃このセンターを設立した女性たちに、敬意を表そうと作った大学専用のフォントです
タイプフェイスのデザインには、ずっと興味を持っていました。しかしながら、かなりの時間をつぎ込む必要があるので、あまり多くのデザインを完成できていません。私が仕事を始めた頃、ニューヨークのITCなど数か所にデザインを持ち込んだことがありますが、どれとも縁がありませんでした。今は、個人でタイプフェイスを発行することが可能です。ソフトウェア(FontLab)さえ学び、販売代理店を探すか、自分でインターネットを通じて販売すれば可能なのです。
私は、FontLab Studioを我流で学びました。コンピューターでベジェ曲線を描くことには慣れていましたが、タイプフェイスを完成させ、あらゆる基盤で使用可能にするには、学ぶべきことが多くありました。カリグラファーには見当もつかないと思います!
私は、カリグラファーになろうと考える以前にタイプフェイスのデザイナーになりたいと思っていましたので、活字を通してカリグラフィー、文字の起源や主な形が何故その形をとることになったかを学ぶ必要があると決めたのです。Eric Gill、Jan Tschichold、 Hermann Zapf、Jan Van Krimpen、Stanley Morrison、Frederic Goudy、William Dwiggins、 Karl Eric Forsberg、Karlgeorg Hofer、Rudolf Koch、Edward Johnsotnや Georg Trumpは、タイプフェイスのデザインにカリグラフィーの影響を取り入れているほんの一部の名前です。それが彼らの生き方だったと言えるでしょう。
*右 Littera Scripta Manet:Tシャツデザイン。現在制作しているタイプフェイスの基礎になっているもの。TシャツはJohn Neal Booksで購入可能( http://www.johnnealbooks.com/)
現在、日本の立野竜一氏(http://www.evergreenpress.jp)とコラボレーションでブラッシュ・ローマンにヒントを得たタイプフェイスを作成しているところです。
基本的には、私がブラッシュ・ローマンの文字を提供し、彼がデジタルの部分を担当しています。彼は、既にタイプフェイスを市場に投入する経験は持っていますし、このコラボレーションも、サンフランシスコ・パブリックライブラリーで私のブラッシュ・ローマン・アルファベットを見た彼のアイディアでした。彼が私とこの仕事をしてくれて、とてもありがたく思っています。私たちのタイプフェイスは「ディスプレイ」用のものです。私としては、出版やデザイン分野でカリグラフィーに興味を持ち続けてもらえるようなタイプフェイスであってくれたらと願っています。どのように使ってもらえるか興味深いです。(話はまだあるのですが、ここで止めようと思います。)
他にも進行中のものが幾つかありますが、他の委託の仕事もあるので、とてもゆっくりした進行具合です。
質問:西洋と日本のカリグラフィー(書道)の違いはどこにあると思われますか?
当然ながら言葉が違います。系統がかなり違います。審美的には、日本の書道の方が純粋なマークを作るという意味では、更に進化していると思います。
西洋の書道がたどった道や進化の仕方は、まったく違うものでした。このことについてお話すると長くなりすぎますので止めますが、西洋人は日本の書道の素晴らしい作品が持つ力や生き生きしたものを感じ、それが自分の作品にも欲しいクォリティだと「理解」しています。しかしながら、私たちは効果を真似してはいけません。それよりも、何がそれを引き起こしているのかを理解することが大切です。筆の使い方、作者の姿勢や心遣い。もしくは「作者の心情が含まれていない」ストローク。どのようにすれば、そのままを説得力あるように表現できるのか。このことを説明する言葉は他に千ほどあるでしょうが、自分の書く文字に息吹を吹き込もうとしたことがある人には、感じられることです。ですから、私の見解では、日本と西洋の書道では、明らかな違いよりも視覚的且つ抽象的な面の共通点が常にあったと思っています。誰もが直感的な理解力を持っていますし、リズム、動き、エネルギー、正確さ、そして最初はコミュニケーションのみとして始まったものにさえ自分を表現したいという願望、を理解できます。文明化した文化では、ものは芸術として進化するのです。
質問:日本の書道から影響されたこと、インスピレーションを得たことはありますか?
はい。両方の文化の優秀な作品が持つ共通のクォリティについて考えさせられたことがあります。私は、私たちが言葉にしないけれども求めている理想があり、それを得るために努力しているのだと思います。経験を積めば積むほど、更に見えるものがあり、更に学ぶべきことが増えます。(西洋のカリグラファーにとって)日本の書道に惹き付けられるものは、筆と構成の表現力だと思います。日本の書道は、伝統的な西洋の書道ほどグリッド(位置を特定するために基準となる縦横の線)に拘束されていないのではと思います。
日本は、文化的に現代の書道家(カリグラファー)がしていることに対して、西洋より理解があります。私たち(西洋人)が、もっと理解され、カリグラフィーを西洋で育てたいと思うのであれば、この西洋での状況を変えることを目標にするべきでしょう。私の意見では、日本人は「喜びをもたらしてくれる方法」を守りたいと思っていて、西洋では「早く終わらせて」次に移りたいと思っているようです。私は、カリグラフィーは、その西洋の考えを変えることができるのではないかと思うのです。カリグラフィーが成し遂げられるものとは、私たちの生活の「外側」ではなく「内側」を変えることかもしれません。
質問:将来、どのような仕事をしたいと思われていますか?
うーん!これは私にとっては答えるのが一番難しい質問です。私の一部はアーティストで、一部はデザイナーであり、時にはどちらかが大半を占めることもあります。この質問の答えを熟考するのに一年間の休みをとりたいくらいです!
カリグラフィーの文字の形を使った建築の仕事をしてみたいです。世の中には、醜い文字の形が使われた、もしくは最低限で文字の形に無関心な記念碑を作るプロジェクトが多すぎます。ですから、私は建物、例えば教会の中のフリーズ(訳注:絵画や彫刻、カリグラフィー等で装飾された、部屋や建物にめぐらした水平の帯状小壁)をデザインしてみたいです―何かカリグラファーが、そのプロジェクトに貢献した言葉や感性が伝わるようなもののデザインです。Eric Gillが生きた時代なら、そのような委託の仕事があったでしょう。しかしながら、今の時代は「フォント」の環境で競争していて、文字の形はほんの補足のようなものです。何か重要でずっと残るようなものをデザインしたいです。私は、多くの教会がある地域に住んでいますが、文字の形に関して人々は無知で、「すぐに使える文字を使う」ところが多いのです。私が「無知」と言う理由は、100年前のEdward Johnston(そしてWilliam Morris)の言葉を借りれば、良いものが周りにあれば良いものを求めるようになりますが、見るもの全てが良くないものであれば、人々がそのようなことについて教育されない限り、良くないものしか求めないのです。
便利なものと美しいものの融合は、確かにデザイナーの夢ですが、私もそこに興味があると思います。私の住む町の公共空間で、美しい手製の文字を見てみたいです。硬い表面に温かみを与え、コンクリートやガラスを面白いものにするでしょう。文字の形や言葉を更にイメージやイラストとして普及させたいです。
最後に付け加え、そして締めの言葉とさせていただきますが、次にしたいことは私にもわかっていないかもしれません…。それは、私が今も学んでいるからです。まだ「それ」をやれていないという思いがあるので、未だに「それ」を探しているのです。
ありがとうございました。
*カリグラフィー/ペイント: John Stevens
*木彫/石彫:Martin O'Brien
■プロフィール
ジョン・スティーヴンスは、27年を越える経験を持つカリグラファー、ロゴタイプのデザイナー、表現に富むレターフォームのイラストレーターである。本や雑誌出版社、パッケージング、タイプデザイン、グラフィックデザイン、テレビ、映像で、有名な顧客を持つ。 作品展示や本への掲載も広範囲に亘る。2009年11月には東京でワークショップを開催。http://www.johnstevensdesign.com/