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ワークショップレポート
●ドローイング入門ワークショップを終えて 清水 裕子
まずはご参加くださった皆さま、最後まで頑張ってついてきてくださりありがとうございました。カリグラフィー側からのドローイング・アプローチは、おそらく日本で初めてのことだったと思います。正直なところ、2日に亘って行っても良い内容でしたが、本当のドローイングの面白さを感じてもらうために、多少急ぎ足であっても、ペンで書いた文字をなぞるところからスタートして、先の景色も少し見てもらうことにしました。
まず、第1段階目はカリグラフィーのペン文字(ローマンキャピタル)からヒューマニスト・サンセリフ*へ。カリグラフィー的要素を残しつつ、ペンの痕跡を少し消した形です。そして2段階目は、さらにサンセリフ寄りの文字へと変化させました。線の太さの差を減らした形です。チャレンジする課題はシンプルですが、なかなか思うように行かないのがドローイングの難しいところであり、また楽しいところでもあります。「違和感のないようにウェイトを揃える」「曲線中の1番細くなる/太くなる位置が肝心」と言った押さえるべきポイントは、トライ&エラーを繰り返して経験し、全体像として理解が深まることで徐々に身についていきます。「描く・観察・修正」を繰り返して根気よく描き続けてください。
上達する道のショートカットはありませんが、カリグラフィー経験はドローイングの上達に多いに役立ちます。そしてその逆もまたしかり。ドローイングで体験したことを頭に置きながらペンで書いてみると、その筆記用具の特性と文字線および文字の形が結果としてどのように結びついているかを、改めて深く理解することができるでしょう。私自身、まだまだ新たに気付かされることが多くあり、その度に、文字の奥深さを知り、歩いている道の豊かさを知って嬉しく思う日々です。
誰にとっても身近な道具である鉛筆で始められるのがドローイングです。そして、ペンでは書けないようなことが自由にできるのも鉛筆の素晴らしさです。つい先日開催されたリーズベット・ボーデンスのWS(J-LAF主催)でも、鉛筆ゆえの気軽さと楽しさ、広がる文字スタイルの可能性を改めて感じました。そしてどんなに自由であっても、ローマンキャピタルの基本を熟知しておくことが肝心だということも。
鉛筆から生まれる美しい文字が生活をちょっぴり豊かにしてくれたり、文字好きさんの知識欲をそそったり、仕事の役に立ったり。ささやかながら、この先もう少しドローイングWSをシリーズとして続けていきたいと思っています。
*ヒューマニスト・サンセリフ:平ペンや平筆で書いた文字の骨格/ 特徴を持ったサンセリフ体のこと。
ワークショップレポート
●文字を「書く」と「描く」 橘 友希
ドローイングのワークショップが開催されると聞いたとき、私の頭には「?」の文字が浮かんでいました。もしかしたらこのレポートを読んでくださっている方の中にも、私と同じような疑問を感じている方がいらっしゃるかもしれません。
カリグラフィーといえば、筆や平ペンなどを使って文字を書くことで、鍛錬が重要であることは誰にでも理解できると思います。
一方でドローイングといえば、レタリングのように鉛筆などを使って文字を描くこと。何度も描き足したり、消しゴムで修正することも自由です。
職業的に日頃からロゴや文字を作っている私にとっては、文字のドローイングは絵を描くのと同じで、ごく当たり前なものでした。そのような日常的な行為に対して、果たしてワークショップを行うような深い内容はあるのだろうか。そう私は考えていました。
しかし、その考えは実際にワークショップが始まると同時に打ち砕かれていったのです。
サンセリフ体をデザインする
ワークショップでは、清水さんがカリグラフィーで書いた文字の「骨格」を元にして、それをトレースすることで新しく「肉」をつけていくという作業が行われました。
骨格は平ペンで書かれているため、全体的にストロークが自然でかつ統一感があります。さらに、その平ペンによって必然的に生じる太さの強弱、起筆・終筆部、線の抑揚などの特徴を、一定の法則にしたがってドローイングで調整を加えていくことで、新しいサンセリフ体を生み出していくのです。
肉付けの法則を変えることで、同じ骨格から異なるスタイルをいくつも生み出すこができる。それは単なるトレースを超えた、非常にクリエイティブな行為でした。
清水さんのSのトライアル ひとつの骨格から多くのスタイルが生まれている。
ヒューマニスティック具合
肉付けはさまざまな要素を考慮する必要がありました。
一般的にカリグラフィーで書かれた文字はヒューマニスティックな要素を多く持ち、デザインされたサンセリフ体はジオメトリックな要素を多く持っています。
今回のワークショップでは、そのヒューマニスティックな要素をどこまで残すのか(またはどこまでジオメトリックにするのか)といった「ヒューマニスティック具合」がひとつの重要なポイントとなりました。最後のステップでは、自分で決めた単語を描くのですが、その文字1つ1つを同じ「ヒューマニスティック具合」になるようにドローイングするのは非常に難しい作業でした。
最後に
文字のドローイングは、単純そうに見えて非常に奥が深いものでした。今回のワークショップで行ったことは、まさにサンセリフ体の書体デザインの歴史そのものと言えるかもしれません。
カリグラフィーやレターカッティングなど、幅広い分野に精通している清水さんだからこそ行うことができたワークショップだと思いました。
普段のトレーニングとはまた違った角度で書体デザインを学ぶことができた、非常に貴重な機会となりました。
ワークショップレポート
●体感!文字を作る楽しさ 松下和美
ドローイングについては本で少し読んだだけで全くの初心者でしたが、今回"入門編" との事で受講させていただきました。
先生が書かれたペンの文字を基本にして輪郭の微調整を重ね形を作っていく作業は、描いたり消したりの繰り返しで思った以上に大変でした。特にカーブの部分に自然なラインを作るのが難しくて四苦八苦!先生に助けていただきながら何とか2種類のアルファベットが完成しました。
シャープペンシルの芯の幅にも満たない程のラインの取り方の違いで文字の見え方が変わる事や、文字線を同じ太さにしてしまうと縦より横が太く見えるという錯覚は目で見て理解でき、文字はこういう点を確認しながら作るのだと体感しました。
文字が出来上がればそれを並べて単語に。"FLEUR" フランス語で "花" 。
左はペンの文字から少し肉付けをしたもの、右は全てのラインの太さを視覚的にそろえたもの。
ここで一つチャレンジ。1枚目(左画像)を描いた時に気になったのが "U" 。縦に細長い文字が並ぶ中、幅の広さで目立っていたので2枚目(右画像)を描く時に狭くしてみることに。その結果、単語としてまとまり良く、スムーズに読めるようになったと思います。
最後に皆さんの作品を並べて感想をひと言ずつ発表しました。同じ文字を基にして同じ作業を行ったのにそれぞれ違った仕上がり。これが手書き文字の面白さですね。
参考に見せていただいた、先生が作られたたくさんのパターンの "S" はとても興味深かったです。ラインの太さに加えてセリフの付け方などで文字の変化は無限にあるようです。
今回はセリフのない文字を習いましたが、後日、WSで描いた単語にセリフを付けてカードにしてみました(下記画像1番右)。
セリフを付けた事により文字のウェイトが重くなったので、もう少しラインを細くした方がスッキリした文字になったのかな?と反省。また追い追いチャレンジしてみます。
清水先生、スタッフの方々、そしてご一緒させていただいた皆様、ありがとうございました。第2弾があれば是非参加させていただきたいと思います。
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申込みスタート 2018.04.02
賛助会員の優先申込みを開始しました。https://j-laf.org/news/5362.html
開催のご案内 2018.03.16
2018年5月〜6月にかけて、東京、神戸、福岡の3カ所において清水裕子ドローイング入門のワークショップを開催いたします。講座内容及び募集の詳細等のご案内をNewsのページにアップしました。
このワークショップは、文字をドローイングする面白さを体験してもらうことを目的とした、ドローイング初心者向けの入門クラスです。カリグラフィーやレタリング未経験者でも始めやすいよう、カリグラフィーのペンで書いた手本の大文字をトレース(なぞる)することから始め、それをドローイングで整えてAからZまでを仕上げます。その後、それをベースにして、もうひとつ違ったスタイルの文字を描いていきます。作業が早く進む人は、単語のデザインや、新たなスタイルに取り組むこともできます。手書きや手作り愛好家には自分の文字を描く絶好のチャンスです。また、日頃文字を触ることがパソコン画面中心の方にとっても、文字の構造を手で学ぶ良い機会となるでしょう。
ドローイングで作る文字は、印刷原稿として使ったり、布や皮革、石、木などに描いたり、他のアートやクラフト、フォントデザインに使うなど幅広い用途があります。
<講師プロフィール>
清水裕子(しみずひろこ)兵庫県在住カリグラファー、レターカッター。
1994年にアメリカ、ボストンでカリグラフィーを始める。1997年帰国後、フリーランスのカリグラファーとして活動し、カリグラフィーの指導をする。2009年から、レターカッティングをゴードン恵美に師事。J-LAF主催「ゴードン恵美 レターカッティング入門ワークショップ」の講師アシスタントを2017年から務める。『カリグラフィー・ブック増補改訂版』(誠文堂新光社 2017)に「文字のドローイング」を執筆。アメリカのレターアーツ専門誌『Letter Arts Review』(John Neal Bookseller)年鑑への入選及び作品掲載や海外展覧会招待展示、海外カンファレンス参加など、国内外で活動している。
スタジオ レターアーツ主宰
NPO法人 ジャパン・レターアーツ・フォーラム副代表理事
清水裕子 website: http://www.studio-letterarts.com/